筋肥大を最大化するトレーニング種目の順序とは

トレーニングには様々な種目が存在しますが、大きく2つのタイプに分けることができます。それは、複数の関節や筋肉を動員するコンパウンド種目と、特定の筋肉だけを集中的に鍛えるアイソレーション種目です。トレーニングの目的や個々の筋力に応じて、どの種目をどの順序で行うかが筋肥大やパフォーマンス向上に大きく影響します。

この文章では、コンパウンド種目とアイソレーション種目の違いや効果、どちらを先に行うべきかという順序について解説し、筋肥大を効果的に促すトレーニングの方法について考察します。

1. コンパウンド種目(多関節運動)

複数の関節や筋肉を同時に動かす種目です。一度に多くの筋肉を使うため、効率的にトレーニングが行えます。

  • : ベンチプレス、スクワット、デッドリフト、懸垂、バーベルロウ

2. アイソレーション種目(単関節運動)

特定の筋肉だけを集中して鍛える種目です。1つの関節のみを使用するため、狙った部位をピンポイントで鍛えることができます。

  • : ダンベルカール(上腕二頭筋)、レッグエクステンション(大腿四頭筋)、サイドレイズ(肩)

どちらを先に行うべきか?

現在のレジスタンストレーニングのガイドラインでは、序盤に大きい筋肉を鍛えるコンパウンド種目(多関節運動)を行い、終盤に小さい筋肉を鍛えるアイソレーション種目(単関節運動)を行うことが推奨されています。これは、単関節運動で小さい筋肉を先に疲労させると、後に行う多関節運動のパフォーマンスが低下するという前提に基づいています。例えば、トライセプスエクステンションで上腕三頭筋を疲労させると、その後のベンチプレスで大胸筋に十分な負荷をかけにくくなると考えられます(実際には大胸筋よりも上腕三頭筋の方が体積が大きい場合もあります)。

トレーニングの順序を大きな筋群から小さな筋群へ進めることは広く受け入れられていますが、筋肥大に関する効果については研究で明確な結論が出ていません。

研究による筋群順序の影響

シマンらによる2012年の研究では、トレーニングした筋の大きさに関係なく、セッションの終盤に行うトレーニング種目で、実施した反復回数(パフォーマンス)が低下することが示されています。これはトレーニングが進むにつれて疲労や集中力の低下が起こるためです。

トータルボリュームの観点では、コンパウンド種目は高負荷(高重量)、アイソレーション種目は低負荷(低重量)で行われるため、アイソレーション種目の後にコンパウンド種目を行うとトレーニングボリュームが減少する傾向があります。

具体例

  • ラットプルダウンを先に行う場合 ラットプルダウン:50kg × 10回 × 3セット = ボリューム 1500kg バーベルカール:20kg × 10回 × 3セット = ボリューム 600kg 合計ボリューム = 2100kg
  • バーベルカールを先に行う場合 バーベルカール:22kg × 10回 × 3セット = ボリューム 630kg ラットプルダウン:45kg × 10回 × 3セット = ボリューム 1350kg 合計ボリューム = 1980kg

実際にはしっかりとインターバルを取れば後に行う減少はもっと少なくなるでしょうが、今回は計算しやすくするために10%としました。

トータルボリュームを優先するならば大きい筋肉(コンパウンド種目)から小さい筋肉(アイソレーション種目)の方が良いでしょう。

どちらを先に行うのが筋肥大には効果的なのか?

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トレーニング種目の順序が筋肥大に与える効果を比較しようとした研究がいくつかあります。

シマンら(2010年)の研究では、トレーニング未経験の男性を対象に、大きい筋群を先に鍛えるグループと小さい筋群から鍛えるグループで、上半身の運動パフォーマンスと筋肥大の効果を比較しました。この研究では、以下の4種目(ベンチプレス、ラットプルダウン、トライセプスエクステンション、アームカール)を用いてトレーニングが行われ、週2回、12週間にわたり実施されました。

結果

  • 上腕三頭筋: 小さい筋群を先に鍛えたグループのみで筋厚が増加しました。
  • 上腕二頭筋: 筋厚の増加量は両グループで同程度でした。

また、スペニティ(2010年)による研究も、シマンらの研究と同様のデザインで行われ、トレーニング種目を小さい筋群から大きい筋群へ進めると、同様に上腕三頭筋の筋肥大が大きい結果が得られました。

結論としての示唆

どちらの研究でも、大きい筋群(胸や背中など)での筋肥大の効果については測定されていないため、注意が必要です。しかし、トレーニングの序盤で鍛えた筋肉は、終盤で鍛えた筋肉よりも筋肥大が大きくなる可能性が示唆されています。

トレーニングの難易度と代償動作

「フォームの習得難易度」という観点からも、コンパウンド種目の方が難しく、初心者にはアイソレーション種目より優先度が高くなります。例えば、スクワットの前にレッグエクステンションを行うと大腿四頭筋が疲れてしまい、疲労のために大臀筋を過剰に使うなどの代償動作が発生しやすくなります。

上級者の場合、代償動作を抑えることができるため、四頭筋を優先的に鍛えたい場合はアイソレーション種目を先に行っても問題ありません。

結論

トレーニング初心者

コンパウンド種目 → アイソレーション種目の順番で行いましょう。この順番でトータルボリュームが増えやすく、局所的な疲労による悪影響も少なく、トレーニングフォームも習得しやすいです。

中級者以上でも、筋発達に特に改善したい部分がなければこの順番で問題ありません。

トレーニング中級者以上で筋発達のバランスを改善したい場合

例えば、腕の発達が遅れている場合、胸や背中の種目の前に腕の種目を行い、発達が遅れている部位を最初にトレーニングすると良いでしょう。序盤で行う種目ほど集中力が高くトレーニング強度も高められるため、弱点部分を先に行うのが効果的です。

おわりに

トレーニング種目の順序は、筋肥大やトレーニングパフォーマンスに少なからず影響を与えます。初心者や中級者が効果的な筋肥大を目指す場合、基本的にはコンパウンド種目からアイソレーション種目へと進む順序が推奨されます。これは、トレーニング全体のボリュームを確保し、フォームの習得を優先しながら、大きな筋群を先に鍛えることで全体の成長を促すという基本的な理論に基づいています。

一方で、自身の弱点部位を強化したい中級者以上のトレーニーは、優先的に鍛えたい筋肉に集中してアイソレーション種目から始める方法も有効です。最適なトレーニングの順序は個々の目標や現状によって変わるため、自分に合ったプログラムを見つけるために柔軟に工夫することが重要です。

トレーニング順序は筋肥大に大きな影響を与える可能性がありますが、最も大切なのは一貫性と継続です。自分に合った方法を見つけ、地道に取り組むことで確かな成果が得られるでしょう。