タンパク質を摂取する際には、マクロ栄養素だけでなく、食品に同時に含まれる微量栄養素の摂取も重要です。そのため、可能な限り加工されていない食品:リアルフードを選ぶことを推奨します。
近年、マーケティングの影響でプロテインやEAAなどのアミノ酸が筋肥大効果として強調される傾向にありますが、サプリメントよりもリアルフードを摂取する方が理想的であると考えられます。
プロテインパウダーは確かに利便性が高いですが、その手軽さのみを基準に選択すると、総合的な栄養の偏りが生じる可能性があり、すべてをプロテインパウダーに頼るのではなく、バランスよく食品も取り入れることが推奨されます。
フードマトリックスとは?
「フードマトリックス」とは、食品がタンパク質・脂質・炭水化物といったマクロ栄養素だけではなく、微量栄養素や低分子化合物、ビタミン・ミネラル・カテキン・ポリフェノール・アスタキサンチンなどの多様な栄養素を含んでいるという考え方です。これらの栄養素は相互に作用し、消化や吸収率、生体利用率が変わってきます。
**特定の食品を摂取すると、それに含まれる栄養素の相互作用が、成分ごとの効果(例えばサプリメントで摂取する場合)よりも筋肥大などの効果を促進する可能性があると考えられます。**例として、無脂肪乳と通常の牛乳を比較した際、タンパク質やカロリーが同じでも、通常の牛乳の方がアミノ酸の吸収が良くなるというデータがあります。また、卵白のみを摂取するより、全卵を摂取した方がタンパク質合成が促進されるとの研究結果も報告されています。
プロテインの摂取も有効ですが、1日に1回は多様な食品からのタンパク質摂取をおすすめします。以前は、私もプロテインと炭水化物中心の食事を摂取していましたが、最近では食事からの摂取を優先しています。
全乳対無脂肪乳の比較研究
健康な男女を対象とした研究において、筋力トレーニング終了1時間後の摂取物として次の3つを比較しました。
- 全乳(WM):627kcal(タンパク質8g、脂肪8g、炭水化物11g)
- 無脂肪乳(FM):377kcal(タンパク質9g、脂肪0.6g、炭水化物12g)
- 無脂肪乳の等カロリー量(IM):626kcal(タンパク質14.5g、脂肪1g、炭水化物20g)

その結果、全乳がアミノ酸の取り込みを最も促進される結果となりました。
卵白対卵黄の比較研究
トレーニング経験を持つ男性10名を対象として、全卵と卵白(タンパク質18g)の摂取が、レジスタンス運動後の筋タンパク質合成率に与える影響を調査しました。
全卵の摂取の際には、卵黄が含まれているため、卵白と比較して17gの脂肪が追加されました。

その結果、**全卵は卵白よりも筋タンパク質の合成を促進することが示されました。**著者たちは、卵黄にのみ含まれる特定の微量栄養素が、筋タンパク質合成率の向上に寄与している可能性があると推測しています。
全卵と卵白の摂取がトレーニング中の若い男性に及ぼす影響:12週間のレジスタンストレーニングを中心としたランダム化比較試験
被験者:
トレーニング経験を有する男性30名
摂取方法:
- 全卵グループ: 運動直後に全卵3個を摂取
- 卵白グループ: 運動直後に卵白6個を摂取
食事について:
研究の前後で3日間の食事記録を収集し、各被験者の食事の総カロリーや多量栄養素のプロファイルを評価しました。卵以外の食事条件において、グループ間で有意な差は確認されませんでした。
トレーニング・プログラム:
- 頻度: 週3回
- 期間: 12週間
- トレーニング内容: ベンチプレス、スクワット、ランジ、ショルダープレス、バーベルカール、スティフレッグデッドリフト、ラットプルダウン、シーテッドロウ、カーフレイズ、シットアップ
- セットとレップ:
- ライト: 12~14レップ×3セット
- モデレート: 8~10レップ×3セット
- ヘビー: 3~5レップ×3セット
トレーニングのボリュームと強度は、プログラムを通じて徐々に増やしていきました。
研究結果:
全卵グループは、卵白グループに比べて体脂肪率をより低減させ、大腿四頭筋の筋力を向上させました。さらに、全卵グループでは除脂肪体重が大きく増加する傾向が見られました。


総タンパク質の摂取量が同じ場合、どちらのタンパク質源も筋力や身体組成の改善に同等の効果があると思われます。しかし、この研究では同じタンパク質量であっても、全卵のほうがわずかに効果的であるという結果が示されました。
量だけではなく質も気にしましょう
例えば、プロテイン20gと全乳1杯分のタンパク質(8g)で、同じまたはそれ以上の効果が得られる可能性があります。もしくはプロテインパウダーを水に溶かすのではなく牛乳に溶かすなども効果的な可能性があります。
「毎日〜gのタンパク質を摂取することで筋肥大効果が最大化される」という話もありますが、摂取量だけでなく、タンパク質の質も考慮すると更に効果的に筋肥大が望めるでしょう。
またトレーニングを行っている方の中には、脂肪を過度に避け、牛乳もヨーグルトなどもとにかく低脂肪食品ばかりを摂取する傾向の方もいらっしゃいます。しかし、脂肪の摂取が過度に低いとテストステロン値が低下する可能性があるため、特に減量を目的としていないのであれば、適度な脂肪分の摂取を心掛けることが推奨されます。
総摂取カロリーの20~25%程度、体重×0.8~1g程度を目安にして摂取しましょう。
サプリメントor食品
「10~12歳の女児におけるカルシウム、乳製品、ビタミンDの補給が骨量増加および体組成に及ぼす影響:2年間の無作為化試験」という研究があります。この研究では、カルシウム摂取量が低い習慣を持つ10-12歳の女の子を対象に、二年間の食事介入を行った結果、以下の3つのグループに分けて比較しました。
- カルシウムサプリメント
- カルシウム+ビタミンD
- チーズ
結果として、チーズ群の脛骨の皮質の厚みの増加率が最も高かったとの報告があります。サプリメントでビタミン・ミネラルを摂取することも良いですすが、可能であれば食品からの摂取を推奨します。
プロテインとアミノ酸サプリメント、特にBCAAやEAAの違いや効果についての話題は、スポーツやフィットネス界でよく取り上げられるものです。
国内の多くのEAAサプリメントが、植物性由来の原材料(例:トウモロコシ、ジャガイモなど)から製造されているのはコストを抑えるためです。この植物性由来のアミノ酸は、動物性タンパク質のそれとは異なるアミノ酸バランスを持つため、筋タンパク質の合成において効果が異なると考えられます。
植物性VS動物性タンパク質
この研究では、トレーニング後に同じ量のタンパク質とカロリーを有する大豆プロテインと牛乳を摂取した際の筋タンパク質合成の違いを調査しました。その結果、牛乳の方が筋タンパク質合成を促進する効果があることが明らかにされました。

BCAAやEAAの場合にはかなり精製されているのでまで動物性と植物性の違いが影響を及ぼすかは定かではありません。しかし、植物性のタンパク質から栄養素を除去してタンパク質代わりに摂取する必要があるのか、その点については疑問が持たれます。
まとめ
マーケティングでプロテインやEAAなどのアミノ酸の効果が過剰に推されていますが、できればリアルフードの方がいいでしょう。もちろんプロテインパウダーは便利で、手間暇を考えれば忙しい時などは便利なものです。
ただしプロテインパウダーやサプリメントで済ませるのではなく、バランスの取れた食事を摂取するようにしましょう。