「トレーニング時間が60分を超えると、コルチゾールが分泌されて筋肥大に悪影響を及ぼす」という話を聞いたことがありますか?
僕の販売しているプログラムへのコメント欄にも「どうしても60分を超えてしまいますが大丈夫でしょうか」という質問をいくつか頂いているので、やはりこのように思っている方が多いのかな、という印象を受けます。
しかし、この「60分以上は筋肥大に悪影響説」に、しっかりとした根拠はあるのでしょうか? 今回は、筋肥大に最適なトレーニング時間について解説していきます。
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目次
はじめに
コルチゾールとは?
“トレーニング時間は60分以内が良い説”は本当なのか?
現在はっきりわかっていること
インターバルを1分にしてトレ時間を短くする方がコルチゾールは多くなる
「週何回トレーニングするか」による
短時間でボリュームを稼ぐテクニック
60分を超える場合はトレーニング中の糖質摂取を
結論
はじめに
「トレーニング時間は○○分が良い」というよりは、「インターバルを3-5分しっかり取り、決められたトレーニングボリュームをこなせる時間」が「適切なトレーニング時間」です。
60分以上やるとコルチゾールが出て悪影響だから…といって、無理に60分以内におさめようとする必要はありません。
コルチゾールとは?
異化ホルモン(コルチゾールetc.)
栄養素を使っていく方向の代謝
筋肉や内臓を分解する
同化ホルモン(男性ホルモン、インスリン、成長ホルモンetc.)
栄養素を取り入れる方向の代謝
筋肉や内臓を作る、大きくする
アナボリックステロイド、インスリン、成長ホルモンを外部から服用(ドーピング)する場合は筋肉を増加させますが、トレーニング中に増えたり、日常で上下する分は筋肥大に影響されないのではというのが今の主流の考え方です。
なので「インターバルを1分にして同化ホルモンが出るようなトレーニング」ではなく、「しっかりと3-5分インターバルと取ってボリュームを稼ぐ」のが筋肥大には効果的だというのが分かっています。
“トレーニング時間は60分以内が良い説”は本当なのか?
“トレーニング時間が60分を超えるとコルチゾールが増えて筋肥大に悪影響だから60以内にしましょう”とよく言われているようなのですが、何か根拠・エビデンスがあるのかと思い調べてみましたが特に見つからず、英語でも検索してみたんですが特に見つからず。僕のサーチ能力が低いだけかと思いTwitterで募集したところ、立命館大学スポーツ健康科学部 藤田 聡教授からリプライを頂きました(藤田教授は 運動刺激と栄養摂取によるタンパク質同化作用のメカニズム解明、運動生理学を研究なされている博士です)。
紹介していただいたレビューはトレーニング後のホルモンと筋肥大と筋力の相関を調べたもので、
Significant correlations were found for cortisol, usually assumed to be a hormone indicative of catabolic drive, AUC with change in LBM (r = 0.29, P < 0.05) and type II fibre CSA (r = 0.35, P < 0.01) as well as GH AUC and gain in fibre area (type I: r = 0.36, P = 0.006; type II: r = 0.28, P = 0.04, but not lean mass). No correlations with strength were observed.
訳)通常、異化作用を示すホルモンであると想定されるコルチゾール、タイプII繊維の筋断面積増加に有意な相関関係が見られた。強い相関は観察されなかった。
むしろコルチゾールの上昇が筋肥大に逆に相関する(COR濃度が筋肥大と関係する)可能性さえ言及されています。ただ「コルチゾールが出たから筋肥大に影響があったか」ははっきりとはしていませんし、ホルモン分泌説と同じようにあまり関係がないとするのが今のところです。
つまり、60分以上トレーニングするとコルチゾールが出て筋肥大に悪影響が出る、とは考えにくいです。
現在はっきりわかっていること
現在はっきりわかっているのは筋肥大には一週間単位でのトレーニングボリュームと強度が大事ということです。これを抜きにして筋肥大に関する事象は語れなくなっています。
「何分でトレーニングするか」よりも、「1週間単位でのボリュームを稼ぐにはどういうトレーニングメニューを組めばいいのか」という姿勢で考える必要があります。
なので「インターバルを1分にしてトレーニング時間を短くして…」というよりも「トレーニング時間自体は長くなるが、しっかりと3-5分インターバルを取った方が高重量を扱うことができボリュームを稼げるので筋肥大には効果的」だということがわかっています。
❶週のトレーニングボリュームがある一定まで増えると筋肥大に効果的
→科学的に高いレベルで根拠有
❷インターバルを長くすることでボリューム・強度を高くでき筋肥大効果が高い
→根拠有
❸60分を超えるとコルチゾルが分泌されて筋肥大に悪影響
→今のところ根拠無
長時間トレーニングは集中力も切れやすく、疲労も大きくなりボリュームも強度も落ちるので、そういった点でのデメリットはあるかもしれませんが「60分を超えるとコルチゾールが多く分泌されて筋肥大に悪影響」というのはありません。そもそも60分はどこから来た数字なのかさえ分かりませんが…(トレーニング時間をどこからカウントするのかも分かりません。ストレッチから?アップから?)
何が正しいのか見る場合は、憶測ではなくこういったわかっていることを優先的に見るというのが大事です。人体の代謝サイクルというのはブラックボックスでわからない事の方が圧倒的に多いので、憶測だけで「異化ホルモンだから分泌されると悪影響が出るだろう」ではなく、実験などでわかっていること(ボリュームやインターバル)から優先順位を高くします。
インターバルを1分にしてトレ時間を短くする方がコルチゾールは多くなる
トレーニング未経験者を用いて1分間のインターバルと2.5分間のインターバルで比較した研究では、
1分群の方がトレーニング後のテストステロンやコルチゾールのレベルが高くなったものの、トレーニング期間が長くなるにつれて差が小さくなり10週間後には両者の差がなくなっている。そして筋断面積は1分群が5.1%の増加だったのに対し、2.5分群は12.3%の増加であった。
と、2.5分群の方が筋断面積が増加しています。
また、このレビューのトレーニング内容を見てみると、週に2回のトレーニングでDAY1のトレーニングのトータルセットは22セットです。
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2.5分インターバルの場合
①インターバル:2.5分×21セット=52.5分
②トレーニング時間:1セットあたり30秒と仮定×22セット=11分
③各種目のアップや移動など:1種目2分と仮定×9種目=18分
合計81.5分
最低でもこのぐらいは必ずかかる+スクワットやダンベルベンチプレスのアップでは10分以上かかるので現実的に考えると90分はかかっていると予想できます。
1分インターバルの場合はインターバルが21分なので、2分群との差は30分、その他の時間は同じだとすると81.5分-30分=51.5分なので60分以内でトレーニングが完了している、ということになります。
1分群は60分以内、2.5分群は90分のトレーニング時間ですが、1分群の方ががコルチゾールレベルが高くなり、筋肥大効果も薄くなっています。
また単純に1分インターバルの方が十分にレストが取れず、重量が扱えないことによりトータルボリュームが落ちるので筋肥大効果も薄くなります。単関節種目のダンベルカールとかサイドレイズでは1分程度のインターバルでも良いかもしれませんが、短いインターバルは強度も落ちて筋力向上効果も落ちるのでデメリットが多いです。
無理にインターバルを詰めて60分で終わらせるより、しっかりインターバルを取って60分以上行なった方が筋肥大効果が高いです。つまり「トレーニング時間は○○分」と決めてその中で終わらせようとするのではなく、「適切なトレーニングボリュームを確保したトレーニングメニューを適切なインターバルを開けてトレーニングする」のが良いです。
「週何回トレーニングするか」による
例えば週にトータル50セットトレーニングするとして、
週5の人…1回あたり10セット/3分インターバルで40〜45分
週2の人…1回あたり25セット/3分インターバルで90〜120分
ここで週2回の人が「60分を超えると悪影響があって筋肥大しない!」という思い込みから、短時間で終われるようにセット数を少なくしたりインターバルを無理に短くする必要はありません。大事なのは一週間のトータルのボリュームなので60分以上かかってもしっかりこなしましょう。
短時間でボリュームを稼ぐテクニック
とはいえ1回のトレーニングを限られた時間内で行う必要がある方もいらっしゃいます。そのような時に有効なのがドロップセットやレストポーズ法を取りいれるのも効果的です。
Brad Schoenfeldのレビューによると、結局ボリュームが増えると筋肥大に効果的で、ドロップセットやレストポーズ法を使うと短時間でもボリュームを稼ぎやすいので効果があったようだと言及しています。”追い込む”というのはボリュームを増やすテクニックです。トレーニング時間が短い人はこういった手法も使いましょう。
60分を超える場合はトレーニング中の糖質摂取を
トレーニング中の糖質の摂取はパフォーマンスを向上させるので特に長時間になる場合は摂取しましょう。こちらのガイダンスでは、1時間あたり体重×1-1.2gの糖質の摂取を目安にしています(※基本的に全身動かした場合の目安なので上半身だけの場合ここまでの量が必ず必要かどうかはわかりません)。
下半身を含むトレーニング
1.0g×体重㎏を摂取(70㎏なら70g/1時間)
上半身のトレーニング
0.5㎏×体重を摂取(70㎏なら35g/1時間)
CCDや、BCAAにマルトデキストリンを混ぜたものなどで糖質を補給してください。
結論
・無意味に長いトレーニング時間は「集中力が切れる」という面では良くないが、コルチゾールが増えるからといって「60分」に縛られる必要はない(60分を超えないように無理にセット数を少なくしたり、無理にインターバルを短くしたりする必要はない)
・週のトータルボリュームと強度が大事(そのためにはインターバルがある程度長くなってしまうので必然的にトレーニング時間は長くなるというのが多数派)
・ただ週に2回、1時間ぐらいしか時間が確保できない場合は、ボリュームを確保するためにレストポーズやドロップセットを使うと良い
・トレーニング時間が1時間を超える場合は炭水化物の補給を(1時間に体重×1g)
※「60分以上のトレーニングを推奨」しているわけではありません。”適切なインターバルを取り、60分以内にトレーニングを終えられている人”が無理に60分以上トレーニングする必要はありませんので、誤解のないようよろしくお願いします。あくまで無理にインターバルを詰めたり、60分を過ぎたからといって途中でやめてしまう必要はないということです。